岡山地方裁判所 平成10年(ワ)188号 判決 1998年12月11日
本訴原告・反訴被告
大月己年男
本訴被告・反訴原告
川尻四郎
主文
一 本訴原告・反訴被告の請求を棄却する。
二 本訴原告・反訴被告は、本訴被告・反訴原告に対し、金八八万円及びこれに対する平成一〇年一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 本訴被告・反訴原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴被告・反訴原告が反訴につき貼用した印紙額のうち三八〇〇円を本訴被告・反訴原告の負担とし、その余の費用は本訴・反訴とも本訴原告・反訴被告の負担とする。
五 この判決は第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
以下、本訴原告・反訴被告を「原告」といい、本訴被告・反訴原告を「被告」という。)
一 原告(本訴)
被告は原告に対し、金二一五万円及びこれに対する平成一〇年一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告(反訴)
原告は被告に対し、金一三二万円及びこれに対する平成一〇年一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、争いのない次の交通事故(以下「本件事故」という。)について、原告・被告双方が相手方の信号無視によって惹起されたものであると主張し、それぞれ相手方に対し、不法行為に基づき、請求欄記載の損害賠償金及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない本件事故の発生
日時 平成一〇年一月五日午前八時五五分ころ
場所 岡山市掛畑一一二八先約五〇〇メートル県道交差点(以下「本件交差点」という。)
事故態様 原告の運転する普通乗用自動車(岡山五二ひ八四四七。以下「原告車」という。)と被告の運転する普通乗用自動車(岡山三三は四〇七。以下「被告車」という。)が出会い頭に衝突したもの
二 争点
1 責任原因
原告は、被告の進行方向の信号機が赤色表示であったと主張し、被告は、原告の進行方向の信号機が赤色表示であったと主張する。
2 原告の主張する次の損害が認められるか。
(一) 車両損害・一九二万円
(二) レッカー費・三万円
(三) 弁護士費用・二〇万円
3 被告の主張する次の損害が認められるか。
(一) 車両損害・九〇万円
(二) 代車損害・三〇万円
被告が平成一〇年一月一〇日から同年二月八日までの間、光畑隆男からトヨタカローラを賃借した賃料
(三) 弁護士費用・一二万円
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 原被告の本件交差点への進入状況等
証拠(甲五の1ないし3、八、乙一ないし三、原被告各本人)によれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、県道岡山賀陽線を、加茂川町方面(西側)から日応寺方面(東側)に向けて進行し、時速約六〇キロメートルで本件交差点に差しかかった。なお、本件交差点の手前四〇〇メートル地点から同三一〇メートル地点まで本件交差点の信号機が確認でき、同地点から本件交差点の手前一〇七メートル地点までは道路がカーブしているため信号機を前方に確認することはできなくなるが、同地点から本件交差点までは信号機を確認することができる状況にあった。
(二) 被告は、国道四二九号線を、真星方面(南側)から加茂川町広面方面(北側)に向けて進行し、時速約四五キロメートルで本件交差点に差しかかった。
(三) 本件交差点の南西側(原告から見て右側、被告から見て左側)には山が張り出していて、原被告の双方の見通しは悪く、本件交差点の直前まで相手方の車両を発見することができない状況であった。
(四) 本件交差点で原告車の前方と被告車の左側方が衝突し、原告車はほぼ衝突地点で停止したが、被告車は進行道路右側の沿道まで飛ばされて停止した。
(五) 本件交差点の信号機の表示は、県道岡山賀陽線側(原告側)及び国道四二九号線側(被告側)とも青二五秒、黄色三秒、赤三四秒の周期であった。
2 本件事故直後に本件事故現場に駆けつけた警察官の「物件事故報告書」(乙一)中の記載
(一) 原告側の記載の要旨
本件交差点の手前四〇〇メートル地点で本件交差点の信号機が青色表示になり、前方の白い車が発進したのを見たが、本件交差点直前では信号機を確認していない。
(二) 被告側の記載の要旨
本件交差点の手前で信号機の青色表示を確認した。
3 関係者の供述
(一) 原告本人の供述
(1) 本件交差点の手前四〇〇メートル地点から同三一〇メートル地点の間には、本件交差点の信号機が赤色表示で、白い車が停止していたのが見えた。その後、本件交差点の手前一〇七メートル地点に来た時は白い車が動き出していた。そして、本件交差点に差しかかるまで前方信号機が青色表示であったことを見ていた。
(2) 本件事故直後、被告は被告車から降りて原告車の前に来て、大きな声を出していたが、何を言っていたのか内容は分からなかった。
(3) 警察官から本件交差点の直前での前方信号機の表示を確認したかどうかは聞かれなかったし、本件交差点の直前で信号機を確認していないとは言っていない。
(4) 警察官には白い車が停止していたのが見えた本件事故現場の手前四〇〇メートルの地点を説明し、原告車がどの地点に来た段階で白い車が動き始めたのかは分からないと警察官に言った。警察官は本件事故現場の手前四〇〇メートルの地点にパトカーで一回行った。
(二) 証人大月恒子(原告車の助手席同乗者で原告の妻)の証言
(1) 本件交差点の手前四〇〇メートル地点から同三一〇メートル地点の間には、本件交差点の信号機が赤色表示で、白い車が停止していたのが見えたが、同一〇七メートル地点では白い車が動き出していた。そして、本件交差点に差しかかるまで前方信号機が青色表示であったことを見ていた(原告本人と同旨)。
(2) 本件事故直後、被告は被告車から降りて原告車の前に来た際、大月恒子は「青で行っていたのに。」と言ったところ、被告は「被告が進行している方向の信号機の青色表示を見たのではないか。」と言った。
(3) 警察官には原告の進行方向の信号機が青色表示であったと言ったが聞いてもらえず、警察官からは「青だ青だと死ぬまで言っていろ。」と言われた。
(4) 警察官は、本件事故現場から四〇〇メートル手前の地点にパトカーで一回行った。
(三) 被告本人の供述
(1) 本件交差点に差しかかる際、前方信号機が青色表示であったことを見ていた。
(2) 本件事故直後、吉田香代子に怪我がないことを確認し、直ぐに原告車の前に行き、原告に対し、被告の進行方向の信号機が青だと言い、原告の進行方向の信号機の表示が何色であったかを聞いたら、原告は、被告の進行方向の信号機を指さして「青色」と言った。原告の妻は、原告の進行方向の信号機が青色であったと言っていたが、原告は、原告の進行方向の信号機が青色であったとは言っていない。
(3) 警察官には原告の進行方向の信号機が青色表示であったと説明した。
(4) 原告の妻は、警察官に対し、原告の進行方向の信号機が青色表示であったと訴えていた。原告は、警察官に対し、本件交差点の手前の山を指さしていたところ、警察官はパトカーに乗り、同地点まで三、四回行っていた。
(四) 証人吉田香代子(被告車の助手席同乗者で被告の友人)の証言
(1) 本件交差点に差しかかる際、前方信号機が青色表示であったことを見ていた(被告本人と同旨)。
(2) 本件事故直後、被告から怪我はないかと聞かれたので、怪我はないと答えた後、被告は直ぐに被告車から降りて原告車のところに行って原告に話しかけていたが、その内容は分からない。
4 判断
(一) 前掲各証拠によれば、原告は、被告が本件事故直後に原告車の前に来て、被告の進行方向の信号機が青色表示であったと訴えた際(証人大月恒子、被告本人)に、原告の進行方向の信号機が青色表示であったと被告に言い返した形跡はないし、また、警察官に対し、原告の進行方向の信号機が青色表示であったと主張した形跡もない。
(二) 原告本人は、警察官から本件交差点の直前での前方信号機の表示を確認したかどうかは聞かれなかったと供述するところ、少なくとも右供述からは前記のとおり原告が警察官に原告の進行方向の信号機が青色表示であったと主張したことはないことが認められるが、本件事故直後に駆けつけた警察官にとっては、本件事故がどのような状況において発生したか、すなわち本件交差点における双方の信号機の表示がどうであったかを確認することが第一の責務であるから、警察官が原告に信号機の表示がどうであったかを確認しないとは考えられないこと、加えて、原告の妻は警察官に対して、原告の進行方向の信号機が青色表示であると訴えていた(証人大月恒子、被告本人)し、現に、警察官は原告の説明に基づき、本件交差点の手前四〇〇メートルの地点までパトカーで行き、原告の主張を検証している(証人大月恒子、原被告各本人)のに、敢えて原告車の運転手である原告に進行方向の信号機の表示を聞かなかったなどということは考え難いから、原告本人の右供述は到底信用することができない。
(三) また、原告本人及び証人大月恒子は、本件交差点の手前四〇〇メートル地点で白い車が本件交差点に停止しており、本件交差点の手前一〇七メートル地点で白い車が動き出したと供述するが、原告本人は、警察官に対して、原告車がどの地点に来た段階で白い車が動き始めたのかは分からないと言ったとも供述していることから、原告本人及び証人大月恒子の右各供述は信用性は乏しいのみならず、本件交差点の直前のことよりも本件交差点の手前四〇〇メートル地点という本件交差点からかなり前方地点でのことを強調すること自体、本件交差点直前での信号機の表示の確認状況の曖昧さを推測させるというべきである。
(四) 一方、被告本人の供述には特段の疑問点はない。
(五) 以上を総合すると、警察官作成の「物件事故報告書」(乙一)中の原告側の記載の要旨は、原告の警察官に対する供述を基に作成された可能性が極めて高いというべきであり、原告本人の原告の進行方向の信号機が青色表示であったとの本法廷での供述は、これに反する証拠(乙一、証人吉田香代子、被告本人)に照らして直ちに措信し難く、証人大月恒子の証言も右判断を左右するに足りるものではない。
(六) したがって、証拠(乙一、証人吉田香代子、被告本人)により、本件交差点の信号機の表示は、原告側が赤色表示、被告側が青色表示であったと認められ、本件事故は、原告が前方の信号機の赤色表示に沿って原告車を停止させなかった過失によって発生したものと認められる。
5 よって、原告の本訴請求は、その余の点(争点2)を判断するまでもなく理由がない。
二 争点3について
1 車両損害について
証拠(乙六、八、被告本人)によれば、被告車は、もと岡本二郎の所有であったが、平成九年八月二九日、被告が岡本に対する貸金八〇万円の代物弁済として取得したものであること、被告車は本件事故により全損となったことが認められるから、被告車の損害として右八〇万円の限度で認めるのが相当である。
2 代車損害について
証拠(乙一一、被告本人)によれば、被告は、被告車を前記のとおり岡本から取得するまでは自動車を所有しておらず、友人から自動車を借用して乗っていたこと、本件事故後、平成一〇年一月一〇日から同年二月八日まで光畑隆男からトヨタカローラを一日一万円(合計三〇万円)で借用して乗っていたこと、同日以降は、自動車に乗っていないことが認められる。
ところで、代車損害は、当該車両が事故により使用できなくなったが、当該車両が修理できるまでの相当期間又は当該車両に代わる新しい車両を購入するまでの相当期間中に代車を使用する必要があった場合に認められるというべきところ、右認定の事実に照らせば、被告は、被告車を取得した平成九年八月以前も本件事故以後も自動車を所有していないのであるから、被告が光畑から自動車を借りていた期間、その自動車を代車として使用する必要があったことには疑問があり、右賃料については、これを代車損害と認めることはできない。
3 弁護士費用について
右認容額及び本件訴訟の経緯等によれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として金八万円を認めるのが相当である。
4 よって、被告の反訴請求は、金八八万円及びこれに対する所定の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の部分は理由がない。
第四結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 塚本伊平)